![]()

フューチャーナレッジコンサルティング株式会社
代表取締役社長
福岡 博重 氏
ERPベンダー設立後、多数のERP導入を指揮。
豊富な事例に基づく経営とITを融合したコンサルテーションを得意とする。
あらためて見込み生産における在庫状況の典型的な状況を考えてみましょう。周知のように在庫は材料在庫、仕掛かり在庫、製品在庫、配送在庫として存在します。もう少し踏み込み、企業内の各組織の立場から見てみましょう。見逃してはならないのは、各部署において在庫増を促す心理が働くことです。例えば購買・資材部においては、製造部材を欠品させてはならないと基準在庫数量を増そうという心理が、生産管理・製造部であれば、営業の要求にいつでも応えられるよう中間在庫を多めに確保しようとの心理が働くのです。配送・営業部門でも、客先の短納期注文に対応できるようにと、ある程度の営業所在庫を保持しようとするのです。その結果、全体として2、3ヵ月分の在庫を抱える企業が珍しくないわけです。
本来であれば月次計画を綿密に立て、リードタイムが2週間ほどであれば、これほどの在庫を抱えることになりません。しかし企業規模が大きくなるにつれリードタイムにばらつきが出てきます。また管理・指示サイクルの冗長化、プロセスごとの生産管理は月次、在庫については日次といったサイクルの違いなども在庫増要因となっています。 また見込み生産では、需要予測をもとにMRPによって部品表から生産に必要となる資材の所要量を展開し、在庫情報と照らし合わせて資材の需要と発注時期を算出するわけですが、需要予測を読み切れず、どうしても在庫が増えてしまう傾向があります。生産のライフサイクルが予測よりも早く終わるなどで生産打ち切りとなり在庫があふれてしまうことも少なくありません。 このように在庫の側面からみると、受注を予測し生産を行う見込み生産には高いリスクがともなうのです。その点、ユーザーからの受注に基づいて製品を生産する個別受注生産は在庫も材料品程度でよく、在庫スペースも少なくて済むなど有利なのです。
個別受注生産においては、客先が要求する納期をもとに在庫ポイントを決め、在庫量は必要最小限度にとどめることになります。もちろん、リードタイムの合計=納期とできれば理想的ですが、だいたい客先は「他社も1週間で納めている」とリードタイム合計より短い納期を求めてきます。そのため、例えば支店に製品在庫を置いて引き当てたり、中間在庫を持ったりするわけです。また個別受注生産では在庫ポイントの設定は必要に応じて移動でき、最適の在庫ポイントを決定したなら、他の在庫ポイントは不要になります。
しかし個別受注生産の実際は、生産形態の混在や製品ライフサイクルの変化などが加わって複雑化します。現実的には一つの工場の中で、類似の製品、売れ筋の製品、息長く売れる製品、短納期が求められる製品、比較的長い納期の製品が混在しています。製品ライフサイクルのピークにさしかかっている製品もあれば、後期にさしかかる製品もあるため、見込み生産と受注生産の混在もあり得るのです。さらにいえば、個別受注品の中に標準部品が組み込まれているケースなどもあり、複雑な資材需要を効率よく取りまとめ、原価を考慮しながら発注を行う仕組みが求められます。
また個別受注生産では、だいたいにおいて受注の頻度が低く、1回限りと思われる注文の場合、マスター登録においてZあるいは9999など、その他諸々のコードとして処理されるケースもあるようです。ERPはマスター登録をしてから受注を受け入れる仕組みになっているのですが、1回限りの受注品のマスター登録は煩雑だというわけです。しかし1回限りの受注がリピート受注につながる可能性も無視できません。スピーディーなマスター登録を可能にするためには、社内承認プロセスの整備等も必要になってきます。
個別受注生産の効率を上げ、収益を上げるためにはリードタイムの削減、在庫削減、そして原価削減の3つのポイントを押さえる必要があります。
リードタイム削減のチェックポイントは、まとめ生産をしていないか、多めに生産していないか、そして機械の稼働時間と製品が工程に滞留している時間の比率が適正かの3点にあります。優れた企業では製造工程内のある機械の稼働時間10分に対して、工程の製品滞留時間は数十分程度というレベルです。しかし中には機械稼働10分に対して滞留時間が3日間というケースもあります。カイゼン活動では機械の稼働時間や稼働スピードにばかり目が向けられますが、工程と工程の間で遊んでしまっている仕掛品などは見落とされがちです。
個別受注生産は見込み生産に比べ在庫が少なくて済むと述べましたが、現実には、同じ生産ラインの中で定番の売れ筋製品と混在したり、標準部品を使用していたりするため、どうしても在庫を抱えることもあります。多少の在庫は仕方がないとするか、あるいは躍起になって削減に取り組むか。私はよく「少し目先を変えてリードタイムに目を向けては」とアドバイスすることにしています。つまり工程間のリードタイム管理や、部署と部署の隙間に無駄なリードタイムがないかチェックしてみるのです。案外気付かれていないことですが、リードタイムが削減すると、その分、在庫が削減されるということがあるのです。
原価削減の改善ポイントは、各工程の入りと出をしっかりチェックすることです。じつは一流とされる企業においても、多くの場合、各工程の完成数量データだけが記録され、投入数量データは記録されていないのです。入りの記録がなく出の記録がないのでは、その工程内の歩留まりの把握はできません。各工程における入りと出をしっかり管理すれば、常に正確な歩留まりを把握し、不良品発生の状態をつかみ、その原因を分析し対策を講じることができるわけです。多くの日本のメーカーが完成数量データばかりを重視するのは、作れば売れる時代が長かったからだと思われます。製品のライフサイクルがめまぐるしく変わり、こまめに製品の入れ替えをしなくてはならない時代においては、入りと出の管理をしっかり行って歩留まり率、ロス率を把握しておく必要があります。
また、判定保留や異状品についても留意が必要です。欧米のメーカーでは、良品なのか不良品なのかはっきりしない製造品は、いったん「良品外」として落とされます。これに対して日本では判定保留扱いとなり、良品でもなく不良品でもない、いうならば「グレー品」として扱われるケースが多いのです。この判定保留の数字が生産管理を狂わす大きな要因となることがあるのです。判定保留や異状品が発生した場合には、即座に担当者にアラートが発せられる仕組みを構築する必要があります。




