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経営創研株式会社
葉 恒二 氏
同志社大学工学部工業化学科卒業。自動車部品会社の金型設計、製造・技術部門を経て石油化学会社にて高機能樹脂の研究開発部門、販売部門に在籍。その後2001年に中小企業診断士工鉱業部門登録、経営コンサルタントとして独立し、製造業の様々な改善活動の支援を行っている。専門分野は企業診断、経営指導、現場カイゼン、生産技術開発支援など。
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かつてのモノづくりの現場では、CADもコンピュータもなく、業務の肩代わりをさせられるようなシステムはありませんでした。設計図面は手書きで、製造現場では手書きの日報から情報を吸い上げ、それをもとに原価や実績を算出、把握していたのです。IT化が進む今日、ネットワークによって情報伝達の速度は速くなり、より多くの人たちによって情報が共有されるようになりましたが、扱われる情報の種類はそれほど変わっていません。リードタイムの短縮、歩留まり・不良率の低減、コスト削減、利益確保など依然として残る諸課題をIT活用により解決する際の視点をあらためて検証してみます。
私は、情報システムと深く関わったという経験を持っているわけではありません。自動車部品会社で設計を担当していた頃はCADも生産管理システムもまだなく、ドラフターと呼ばれる机で設計図面を描き、手書きの部品表によって生産プロセスが流れていました。原価や実績算出の基になるのは、この部品表や作業者が作業の度に書き込む日報で、管理者はこれらから製番別、作業者別に工数を集計していました。
時代は下って、今や多くの製造現場に生産管理システムが導入されるようになりました。たしかに単位時間に処理される情報量は増えました。情報の伝達範囲もLANによって格段に広く、そして速く伝わるようになったのです。
しかし真に必要とされる情報は時間、数量、価格(利益)にかかわるもの、つまりいつ、いくつでき、いくらになるかであり、これは昔も今も変わらないことだと思われます。基本的にはモノづくりとは、部品を調達し財を形成していくことであり、ドラフターがCADに、調達の手段が電話からEメールに替わり、NC工作機械や生産管理システムなどが登場しましたが、管理しなければならない要素は何ひとつ変わっていない、というのが私の認識です。今なお残る主要な課題は3点で、リードタイムを少しでも短くしなければならない、部品・製品の種類はできる限り減らす、営業と製造など部門間の連絡を密にして、相互の信頼関係を高める、というのが私の認識です。
生産管理システムを導入して、これらの課題を解決していく上で必要な視点、考え方を明確にしていくため、次の3つの事例について述べさせていただきます。
事例1の企業は、従業員数千人規模の輸送機関連メーカーです。部品数の多い典型的な組み立て生産を手がけ、古くから情報システムを活用した生産管理を行っています。この企業が生産準備の段階でコストダウンをせまられました。内製品はもとより、外注製品についてもコストダウンをすることになり、設計、生産技術、購買の各部門がチームを組んで取り組むことになったのです。
結果は思わしくありませんでした。コストダウン交渉では、製造の工程、設備や治具、作業標準時間、歩留まりや不良率などのデータをもとに進めるのですが、それぞれのコスト査定をできるものがいないために、交渉は暗礁に。外注企業から「そんなに安くできる部品メーカーがあったら紹介して下さい」と開き直られてしまったのです。
この失敗の意味するところとは、分業化が進むと部品表などで得られる数字を比較するだけで分かったような気になるものの、数字の意味するところや根拠を理解できなくなってくるということを示しています。生産システムが導入される以前の時代では、設計、生産技術、購買の各担当者は、それぞれの担当者の役割や数値データの持つ意味、これらの関連性をきちんと理解していたのです。しかし生産システムが導入され、各担当者が自分の役割だけを集中的に見るようになり、お互いの関連性、いわば繋がっている根っこの部分が見えなくなり、以前なら部品表を見れば、推し量ることができた他部署の数値の意味も、理解の及ばぬところとなってしまったのです。たとえ生産管理システムが導入されても、常に現場に足を運び、数値の意味を現場感覚で理解することが重要なのです。
事例2の企業は、海外に進出した中小金型メーカー。従業員は30人。作業日報はあまり厳密に管理運用されていませんでしたが、社長さんは1日に1、2度は必ず現場に足を運び、稼働状況を管理していました。海外進出の際には社長自らが現地に飛び、リーダー格2名と共に進め、現地従業員の採用も社長が執り行うという大変忙しい環境です。
しかし同社の業績伸長は著しく、2年先までの事業計画を作成し、黒字の見通しを得ていました。まともな生産管理が行われているとは、決していえないなかでこれほどの業績を上げることができた要因の1つは原価の見積もり方法にあるのです。同社の場合、たとえば同月内に金型A、B、Cを生産する場合、事前の正確な見積もりが難しいという事情があります。金型の場合、お客様と打ち合わせしながら製作が進むため、事前に見積もり金額として確定していることはなく、金型が完成したところで、見積金額として売価に上乗せするのです。ではどのように原価を見積もるか? 実はそれが、社長の経験と勘が頼り。「ひと睨み、いくら」で見積もるのです。もちろんこれでは誤差が出ます。ほんとうのところは蓋を開けてみるまでは分からないのですが、同社はここで発想を変えたのです。つまり、当月の金型製作に投入した総加工費は、毎月の従業員の総人件費にほぼイコール。総材料費、総部品費は実績から出るのだから、ある期間を定め、総売上から総原価を引いたものを利益として考えればよいとしたのです。
この方式に、1日に1、2度、社長が必ず現場に足を運ぶという工程管理が加わり、得られたデータが経営戦略の情報となりました。現場の作業者や工作機械の繁閑状況から、まだ仕事を入れられるか、あるいは少し仕事をセーブした方がよいか、ここで「ひと睨み」の判断によって情報を的確に読み取り、最適の判断を導き出しているのです。
成功要因は、個別の金型の価格にとらわれるのではなく、工場(会社)としての利益を把握するという、自社に可能な情報管理の方法を見極め、思い切って選択したところにあります。もちろん最近の会計的な考えからすれば、これがベストの方法かどうかには議論の余地があることでしょう。事例2から言えることは、自社のスタイル、戦略を明確にし、自社のレベル、能力に合った管理方法を見つけ出すことが重要であるということです。
事例3は従業員3千人の企業の小物プレス部門の例です。自社で作った金型を使ってプレス加工し、できあがった部品のバリ取り、溶接など2次加工を行っています。
同社は生産管理システムを導入して、リピート生産に対応、生産計画を立てるのですが、計画外残業や夕方になって急きょ輸送便を走らせるなど非定常輸送がひんぱんに発生し、納期調整が日常的になされ、常に製造現場が混乱気味という課題を抱えています。生産管理システムを動かすための部品表データ、品目マスタデータなども整備しているのですが、事後のデータ手修正が常態化し、歩留まり数値、不良率の数値も大きなずれはないものの、作業者の技量にばらつきがあるため、平均値にもばらつきが生じている状態です。
同社の生産システムがうまく働いていない原因は、生産管理システム導入の目的が明確でなく、また生産管理システムに対する従業員の意識が統一されていなかったところにあります。つまり上から「生産管理システムを運用しなさい」という指示があり、それ自体が目的になっているのです。また現場の混乱が常態化しているのは生産管理システムの問題ではなく、現場の製造担当者の基本技量が確立されていないためと考えられました。
この事例は、生産管理システム導入において、全従業員が共通の価値観、共通の目的・目標を持ち、何のためのシステム導入かを理解し、その認識を共有することが重要であることを示しています。さらに一歩踏み込むなら、自社の強み、弱み、そして理想像とのギャップを認識したうえで生産管理システムを導入することが重要であるともいえます。弱みを抱えたままでは、部品表を味方につけることはできないということなのです。
3つの事例から、生産管理システムをうまく導入する具体的方法が見えてきます。事例1の金型メーカーの場合、ジョブローテーションがよい結果をもたらすことが分かります。異動、期限付き異動、研修など、各企業の事情に合わせた方法から選択するのがよいでしょう。2つ目の事例は、海外に進出、社長のひと睨みで原価・工程を管理する金型メーカーの業績は好調ですが、社長1人がすべてを管理している点にリスクが潜んでいます。設備や人が増えれば、ひと目で稼働状況を把握することは困難になります。より一層成長するための具体策は、分権化を進め、社員全員で組織を確立したうえで目的にあった生産管理システムを導入するのがよいでしょう。3つ目の事例は、自社に合った生産管理システムを導入し、うまく運用するために、何よりも社員全員が、何のために生産管理システムを導入するかの意識を共有することが最大の鍵であることを示しています。まずは自社の足元を見て、一歩引いて自社の姿をとらえ直してみることも重要です。




