戦略経営管理セミナー「グローバル展開を支える次世代の経営管理を考える」
講演3
経営の見える化の実証 ~経営者から見た情報とその活用~
花岡和彦
株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ 代表取締役社長
決算の早期確定や内部統制など、経営を取り巻く環境が急激に変わる中、変化への対応や競争力の強化が、企業にとって至上命題となっています。そのためにも、これまで部門に最適化されてきた情報システムを、「一元化」と「見える化」によって、経営者の判断を助け、経営を支援するツールへと変えることが必要です。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリの花岡和彦は、既存システムに手を加えることなく、短期間で、企業経営と一体化した“見える化の仕組み”を作り上げた経験を紹介しました。
部門ごとの情報システムは経営者に向かない

花岡和彦
株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ 代表取締役社長
現在、多くの業務がシステム化されており、システムは正しく稼働しています。そのため、データは会計、購買、受注、売上、経費、人事など、幅広く蓄積されており、十二分に存在すると言えるでしょう。
しかし、経営者の視点から見ると、データ項目は不統一、整合性もなく、企業経営のために自由に使える情報ではありません。部門ごとにシステムがサイロ化され、データの活用も部門内で固定化しているのが実態です。
2009年6月、花岡和彦は富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(以下、富士通SSL)の社長に就任します。そこでまず、システムに記録されたデータを利用して、会社全体を掌握しようと考えました。
「情報の所在とシステムの操作を、全部自分で覚えなければなりません。社員は使い慣れたシステムで、不便は感じていないようでしたが、新任の私にとって、すぐに使いこなせるものではありませんでした」と花岡は振り返ります。
富士通SSLは、1972年設立の社員数1,231名、売上高242億円、ソリューションビジネスと大規模システムSI受託開発を主な事業にする企業です。同社では、常務や取締役、本部長など、各組織に責任を持つ経営幹部にとって、情報システムは十分に役に立っていました。経営の見える化、見せる化も実現していたと言えます。
ですが、会社全体の状況を掌握しようとすると、スタッフがそのための資料を、改めて作らなければならない状況でした。特に間接業務を中心に、業務プロセスが標準化されておらず、従業員の手作業や残業で、プロセスとITをつないでいるのが実情です。
担当者が休むと作業が止まる、担当者の変更でミスが増加する、複数部署にまたがる作業の進捗が分からないなど、課題も多々ありました。こうした問題を解決する方法として、よく言われるのが、たこつぼ化したシステムのデータを連携させる情報系システムの構築です。
とは言え、新たなシステムの構築には多くの工数とコストがかかります。システム同士をつなぐと、1つのシステムの変更が関連システムに及んだり、データを他部門で参照する場合、権限やセキュリティ管理が煩雑になるといった問題もあります。
企業の全活動を「XML大福帳」に記録
そこで、富士通SSLでは、よりシンプルに、低コスト、短時間で、データを活用できる仕組み作りに取り掛かりました。「色々と検討した結果、私が以前取り組んでいた『XML大福帳』の導入を決めました」と花岡は述べます。
XML大福帳は、発生するデータを要約することなく、そのまま蓄積するデータベースシステムです。企業活動で発生するあらゆるデータを、XML形式で一元的に記録します。その情報は経営者や管理職層、現場担当など、各ユーザーが必要に応じて、必要な形で活用できます。

このシステムでは、事実(明細)レベルの履歴が残り、データは更新ではなく、追記されるため、情報が漏れなく格納されます。そのため、過去にさかのぼって、明細レベルでのデータ分析と活用が可能になります。
XML大福帳の発想の原点は、統合会計ソリューションとして、多くの導入実績を持つ「GLOVIA/SUMMIT」です。同製品は、受注・手配、購買、人事など様々なシステムを標準インタフェースで接続。各システムの個別取引明細データを、人手を介さずに、5W1Hの規定された分類基準で、自動的かつ論理的に仕訳けし、そのまま記録します。
これにより、管理会計と財務会計の一致が実現されるとともに、取引明細情報を経営情報として活用できるわけです。「全データをXML化すると、データ量は20倍近くに膨らみます。それでも、ストレージ価格が大幅に下がったことで、大量データが格納できます。超高速のXML検索技術とオンメモリ処理によって、明細レベルの情報活用が可能になりました」(花岡)。

既存システムを変更せずにミクロの分析まで
富士通SSLでは、XML大福帳と経営の見える化ソリューション「GLOVIA/MI」を利用したプロトタイプ環境の構築を行い、本番環境の構築に先だって、試行システムをわずか6週間で稼働させました。その後、本番環境の構築とデータ投入を1カ月で終わらせ、2009年11月には本稼働しました。
GLOVIA/MIは、取引明細を活用した「経営の見える化」ソリューションです。企業内に散在する明細情報を統合管理し、分析や予測に活用できます。形式を揃えずに多種多様なデータを格納できる柔軟な構造が特徴です。また、富士通ではXML大福帳を、企業内のすべての業務活動を記録するソフトウェア「Interstage XML Business Activity Recorder」として、外販を開始しました。
稼働を開始した大福帳は、それぞれの項目がカタログになっており、見たい項目をクリックすると、明細が出てきます。出張旅費を分析する場合、数字をクリックすると、集計の元となった取引明細データが表示されます。出勤時間帯や出勤状況、交際費の分析など、個人レベルまで掘り下げて分析できます。
当初富士通SSLでは、すべての情報を見られるのは社長だけとし、管理職はそれぞれの権限に応じた「ミニ大福帳」が必要ではないかと考えていました。しかしながら、その後実際に運用する中で、効果の高さを考慮して、人事評価と給与データを除いた、すべてのデータを公開、業務に役立てられるようにしています。

現在、実績や予兆、受注動向などの経営情報をビジュアル化する、経営者向けのマネジメント・ダッシュボードを導入している企業は少なくありません。「XML大福帳による明細データがあれば、ダッシュボードは不要です。グラフが必要であれば、生のデータから作成できますし、逆に要約された数字を見ても経営判断に使えません」と花岡は強調します。
富士通SSLの経験から、XML大福帳の経営者にとっての効用は、次の4つにまとめられます。
- 現状のシステムを変えることなく、ミクロまで管理対象に
- 小さなごまかしや遅滞も許さないとの立場で改革できる
- 従来の抽象的なマネジメントを、具体的な数値によって変革
- 老朽化したシステムでも、現場本位で段階的に再編成
「XML大福帳を使うことで、『どうなっている。何とかしろ、うまくやれ』という旧態依然のマネジメントから、従業員が『社長は見てくれている。だからしっかりやらなければ』と感じる、新たな経営スタイルへ変わった手ごたえがあります」と花岡は力強く語り、最後の言葉としました。



