中堅企業が成功する内部統制構築のコツ
公認会計士 藤田 博司
[2007年5月22日掲載]
内部統制の制度化

米国において施行されている企業改革法(SOX法)の日本版として金融商品取引法が成立し、いよいよわが国においても上場企業を対象とした内部統制監査が制度化されることとなりました。
一方、内部統制監査を受けることが義務付けられているのは、当面上場企業とその関係会社のみということもあり、中堅企業の多くは対岸の火事としてこの状況を見守っている感もあります。
しかし、内部統制を有効に整備、運用する必要性は監査を受けるか否かとは関係なく、全ての企業に課せられた課題であるといえます。したがって各社は常に自社にとってベストな内部統制を構築する具体的活動を継続的に行うべきといえます。
一方各企業が構築すべきベストな内部統制といっても、当然のことながら全ての企業に共通の理想形があるわけではないので、各社は目指すべきゴールを自ら設定しなければなりません。
内部統制の実施基準

そこで、昨年公表された内部統制監査の実施基準(公開草案)を参考に、上場企業とは違った観点から、中堅企業にとっての戦略的な内部統制構築について考察していきます。まず、実施基準によると内部統制は (1)業務の有効性及び効率性、(2)財務報告の信頼性、(3)事業活動に関わる法令等の遵守及び (4)資産の保全という4つの目的を達成するためのプロセスであるとしており、内部統制監査においては特に (2)財務報告の信頼性に係る内部統制の有効性を監査するということとされています。
したがって、上場企業各社は必然的に財務報告の信頼性に係る内部統制を中心とした再構築、整備等を行わざるを得ませんが、中堅企業にはその制約がないため、4つの目的のうち自社が最も強化したい部分に特化して再構築することもできるし、全ての目的について平均的にレベルアップを図るようなバランス重視の戦略もとれるのです。
中堅企業における実例
具体的な強化の一例としては、以下のような戦略が考えられます。
中堅企業であるA社(メーカー)は内部統制の目的の一つである、業務の有効性及び効率性の達成に特化した内部統制の再構築を自社のゴールとして設定しました。
まず、内部統制とは企業の全ての構成員によって遂行されるプロセスであることを経営陣が十分に認識した上で、全社員がこのプロジェクトに主体的に参加するように意識付けていくことから始めていきました。
その後、実際の活動としては内部統制プロジェクトチームと業務改善プロジェクトチームを並立させる形にし、相互に情報交換を密に行うことで具体的成果を挙げていくという手法をとりました。

すなわち、内部統制プロジェクトチームが主体となって、業務プロセスごとのフローチャート作成を現場に指示し、その成果物をもとに各業務プロセスに内在するリスクの分析と改善提案を出す活動を行い、一方業務改善プロジェクトチームが同じフローチャートについて、業務上の無駄や時間のロス等について考察し違う角度から改善提案を出していき、両者を調整していくという方法をとったのです。
この活動は、相当の時間とスキルを要すると考えたため、試験的にある部署を選定してパイロット導入し、そこで得た経験を活かして行ったこともプロジェクトをスムーズに進行させるという意味で成功の一因となりました。
また、投入するコストや時間等も慎重に考慮し、A社にとってプライオリティの高い部署である、製造部と営業部についてのみ今回のプロジェクトの対象としたことも成功要因となりました。すなわち、内部統制監査という制約がないため、全社について一度にプロジェクト対象とせず、残りの部署について次回に回すというような選択が可能であり、活動の過度の集中などによる社員の疲弊を防ぐことができたのです。
A社の成功例のように、中堅企業にとっては内部統制の再構築に関する自由度が高いというようにプラス要因にとらえることができれば、とかく消極的なイメージで考えられがちな内部統制再構築というテーマも戦略的に取り組むことができるといえるでしょう。
著者プロフィール
- 藤田 博司 (フジタ ヒロシ)
公認会計士 1993年3月 中央大学法学部法律学科卒業
1999年10月 朝日監査法人(現 あずさ監査法人)横浜事務所入所
2005年6月 あずさ監査法人横浜事務所退所、藤田公認会計士事務所 開設中堅企業の株式公開支援、内部監査などを担当。内部統制等のセミナー講師を数多く担当している。


