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株式会社玉子屋 代表取締役 社長
菅原 勇一郎 氏 インタビュー
[ 2007年7月10日掲載 ]

株式会社玉子屋 会社概要
本社 |
東京都大田区中央8-44-7 |
|---|---|
設立 |
1975年6月1日 |
年商 |
72億円 |
従業員数 |
600名(パート、アルバイトを含む) |
業種 |
食品製造 |
|---|---|
事業概要 |
給食弁当、出張宴会および折り詰め調整、食材の仕入れおよび加工販売、葬祭懐石料理、会議用弁当 |
ホームページ |
都心のビジネス街に配送エリアを絞り、1日に7万食以上を供給する「日本一の弁当屋」玉子屋。正社員、パート、アルバイト従業員たちが見事なチームワークを発揮、また営業マンとして積極的に情報を収集、ロス率0.1パーセント未満の販売実績を維持する。社内活力を生み出すシステム作りのポイントは顧客本位、従業員のプラス評価を重視する企業姿勢にある。
客としてみた家業
「もっと顧客を満足させられる」と2代目を継ぐ

私が父の仕出し弁当屋、玉子屋に入社したのは1997年でした。1日に2万食を売っていた頃ですね。都市銀行に3年間勤め、それから食品流通系のマーケティング会社に3年間勤め、そして家業を継いだのです。
会社勤めを辞めて家業を継ごうと決心したきっかけは、マーケティング会社時代に約3年間、自分の家の弁当を食べていて、いろいろなことに気付いたからでした。もっとこんなメニューを取り入れれば女性客が喜んで、弁当利用者が増えるのでは、クレームの8割は接客態度に起因しているのではないかといったことです。こうした接客に真剣に取り組めばもっとお客様に喜んでいただき、顧客を増やして成長できるはずだと思いました。
「これは一生を賭ける仕事だな」。そう思った私は、父に頼んで玉子屋で働こうと心に決めたのです。28歳の時です。
じつは今日も、6万2500食のご注文をいただき納入してまいりました。この業界では3000食を売って大手といわれますから、たいへんな売上であることがおわかりになると思います。しかも製造ロスは平均0.1パーセント以下。7万食製造して廃棄率は70食以下です。業界の平均が2パーセントですから20分の1です。
1日7万食販売でロス率0.1%以下を実現するシステム
ロスのない製造・配送システムをわかりやすく説明すると、過去の販売実績をもとに、季節、天候などの状況から販売数を予測し、実際の売れ行きとの差を、臨機応変の配送方法によってゼロに近づけるというものです。
例えば今日の場合、過去の販売実績から「6万食は売れるだろう」と予測しました。そこでやや少なめの5万8000食分の食材を用意し、朝9時半に向けて製造を開始します。お客様からの注文は午前9時から10時です。10時半に注文を取りまとめてみると6万2000食で、4500食追加です。当社の生産能力は1分間350食ですから、すぐに食材を運び込んでもらい、15分後の11時30分には製造完了です。
一方、遠距離地域の配達に向かうトラックへの積み込みは、まだ注文が確定していない午前9時から始まります。前日の注文実績をもとにやや多めに積み込み、ひと足早めに出発します。そして午前10時30分、各エリアの注文数が確定するとオペレーターから各トラックへ受注数量が伝えられます。ここで足りないトラックが判明しますから、たとえば中距離の配達エリアのある1台のトラックで30食足りなければ、遠距離エリアから戻ってくるトラックと合流して30食を受け取るといったように調整するのです。近距離配送トラックは、注文が確定してから積み込んでも間に合うわけです。
これがロス率0.1パーセント未満の生産・受注・配送システムの仕組みです。ロス率が低ければ在庫を持たず、毎日売り切ってしまえば冷蔵庫も持たず、食中毒の危険を排除できるなどのメリットも出てきます。
逆転の発想「人件費と原価はアップ」で
顧客満足度アップ

当社の経営方針の基本は、お客様の満足度を重視し、そのうえで従業員満足度を実現するところにあります。私は、従業員同士は円のようにつながっていると思っています。さらにこの円はお客様とも密接につながっていて、社員同士で情報を共有しながら商品の味が上がっていくことで、お客様も満足する。その結果、従業員も美味しい弁当作りに手応えや使命感を抱いて、働くことの満足感が得られていくのだとも思っているのです。
こうした考え方がよく表れているのは、当社が原材料費と人件費がきわめて高いところです。弁当の原価率は常に50パーセントを超え、今期は平均53.3パーセント。業界の平均が約40パーセント強ですから破格です。一般には、原価率は低いほどよいと考えられますが、お客様の満足度向上のためには、この発想を変えるべきだと考えました。国内でも、上質の銀ジャケを求め、漁港まで行って船着き場で新鮮さを確かめ現金で買い付けることもありますし、調味料一つにしても添加剤を入れないものを作ってもらうなど徹底的にこだわっているので原価率が上がるのです。
人件費については、おそらく仕出し弁当業界の中でも当社がいちばん高いはずです。そして、社員全員がそれに見合う働きをしています。当社の配達員は営業マンを兼ねていて、毎日の配送、空き容器の回収時に、お客様からいろいろな情報をいただいて来るのです。「今日の魚の味はどうでしたか?」「どんなメニューを希望しますか?」といった味についての感想をはじめ、近所の弁当屋の動向まで、さまざまな情報をフェース・トゥー・フェースのコミュニケーションを通じて収集し、社に持ち帰って毎日報告会を開いています。業界では「1万食に営業マン10人は必要」とされていますが、うちは配達員が営業マンを兼ねる方式でゼロ。本来なら必要な営業マン70人分の人件費を社員で分け合っています。原材料を吟味しお客様に喜んでいただき、働きがいを感じることができる。これこそ社の活力の源ではないでしょうか。
プラスの人事評価のために活用してこそ生きるIT

原価と人件費をアップするとはいっても、もちろん経営者として常にその数字が適正な範囲にあることをチェックする必要があります。幸い、私も創業者の父も銀行マン出身なので会計情報や財務データを一見するだけで経営上の問題点、経営資源をどこに投入するべきかなど、すぐに分かります
IT導入も、しっかりとした経営理念、計数感覚を踏まえて行なわなければならないと思います。当社の場合、受注部分についてはお客様の支払い方法がきわめて多岐にわたるなどで、いまだベテランのパート・オペレーターに代わるシステムが見あたらない状況ですが、配送車両のリアルタイムの位置を把握するシステムや、各工場のセキュリティと従業員の様子をモニタする遠隔操作のカメラシステムなど、各種のITシステム導入にも取り組んできました。
IT導入で重要なのは、従業員の前向き姿勢を評価しモチベーションを上げるために活用することです。例えば私どもは、50パーセントの力を出して100パーセントの仕事をする人より、80パーセントの仕事にとどまったものの、100パーセントの力を発揮した人を高く評価します。年俸や給与の査定では、現場上司のこうした評価結果を社員ごとに集計し、私が工場のカメラで気付いた社員のプラス評価と合わせて参考データとします。大事なことはプラス評価のためにシステムを活用することです。そうすることで、社員のやる気とモチベーションアップは必ず向上します。

うちの従業員はアルバイトも社員もパートも本当によく働いています。じつは彼らの中には、高校生時代の多感な時期に学校生活に馴染めずに退学してしまったような不器用な青年が多いのです。しかし、イザというときに頼りになるのが彼らです。25年前のことですが、当社が食中毒事件を起こし絶体絶命の時、辞めずに踏みとどまり支えてくれたのは彼らでした。また彼らは、お客様に美味い弁当を食べていただく使命感にいったん気付くと、じつに献身的によく働くのです。各種のシステムはこうした社風の中に、自然に定着しています。
お客様の満足度、従業員の満足度を維持するには、それぞれの顔が見える今の規模、つまり一日7万食と従業員600名ほどの企業規模が最適かなとも考えています。働くことに喜びを感じる社風作りを念頭に、一生懸命に働いて、土曜日、日曜日に「来週も頑張っていこう。月曜日が楽しみだ」と思える会社作りを目指しています。


