連載の最終回となる第3回目のテーマは「鳥の目」です。在庫の適正化は流通業の大きな課題ですが、これを解決する手法として企業間同士が協力して商品補充を行っていく「コラボレーティブ・コマース」に注目が集まっています。大局的な視野を持って社内外で協働していくことの重要性について、舟本秀男氏に話を聞きます。
流通業の最大の課題は在庫の適正化といえるでしょう。在庫が過剰になったときには数度にわたる価格変更が余儀なくされ、最終的には商品を廃棄処分せざるを得なくなります。返品の場合も取引先への負担となり、結果として取引条件の悪化をもたらします。
一方、在庫切れは機会損失をもたらすとともに、顧客からの信頼を失うことになります。調査では、機会損失は6%にも達しているとのことです。 消費者嗜好が多様化し新商品が業界全体で毎年数万登場している現在では、なおのこと在庫の適正化は困難になってきています。
この問題を解決する手法として注目されているのがコラボレーティブ・コマース、すなわち複数の企業による協業です。国内外の流通業を鳥瞰すると、この企業コラボレーションに向けた取り組みが加速している現実が見えてきます。
コラボレーティブ・コマースの歴史は、1985年に始まったQR(クイック・レスポンス)活動にさかのぼります。QR活動は、小売業とその取引先が標準コード体系で収集されたPOS情報を共有し、標準EDIで受発注データを始めとした取引情報を電子的に交換し、商品補充を取引企業間で協力しながらやっていこうというものです。これにより、消費者需要に適切に対応することで、取引企業がお互いにコスト引き下げや収益拡大といったメリットを得る、いわゆる“Win-Win”関係を創り上げることを目的としています。
1995年に、QR活動はCPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishiment)へと進化していきました。CPFRは、商品の計画・販売/発注予測・補充に関する取引企業間の共同作業であり、コラボレーティブ・コマースを実現するための代表的なプロセスです。
CPFRとは――
Collaborative(協力し合いながら)
Planning(計画を行い)
Forecasting(予測をし)
Replenishment(商品の補充を行う)
[図1]CPFRの概念(出典:VICS/CPFR委員会)
CPFRのステップは以下の通り、8段階です。
そして第8ステップの次に第1ステップを迎え、全体が1つのサイクルとして循環します。
(1)協業関係の構築、取り組みに関する同意書の作成
(2)共同ビジネス計画の作成
(3)販売予測・需要予測の作成
(4)発注計画/予測の作成
(5)同意した発注量に対して発注書を発行
(6)実際の補充納品作業(フルフィルメント)
(7)計画基準値を超えた分野や例外への対応
(8)成果評価分析、今後に向けての改善

[図2]CPFRのプロセスとサイクル
欧米では多くの企業がCPFRを採用し、欠品の減少、過剰在庫の減少による回転率の向上、輸送効率の改善、売上の増加などの効果を上げています。しかしながら、日本では最近まで企業間コラボレーションが必ずしも普及していたとはいえない状況でした。それには、卸売業が製造と小売の中間に位置し、臨機応変に対応していた面もありますが、日本固有の商慣行にもその原因はあるのではないかと私は考えています。
2002年に経済産業省が実施した「SCM推進のための商慣行改善調査」では、返品・多頻度小口配送の要請など、未だ多くの取引慣行があるとの調査結果が報告され、特に情報化の取り組みでは自社コードの使用、データフォーマットや通信手順がバラバラ、情報公開が不十分といったことが指摘されています。 こうした状況の中、日本でもコラボレーティブ・コマースを推進する新たな動きが出てきています。それが2005年に開始された「流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS)」プロジェクトです。インターネットを通じたEDIの標準化を推進するため、XMLで規定されたメッセージをebXML手順でデータ交換しようとするものです。小規模企業への普及にはまだ多少の課題があるものの、新たな標準化メッセージでの交換に切り替わる土壌ができてきたといえます。
POSデータを取引先に提供する企業も出てきています。また、CPFRを採用する企業も増加してきました。しかし、まだまだ先は長いです。
コラボレーティブ・コマースの基本は、(1)共通データ標準の採用、(2)データの一元的管理、(3)マスターデータの同期化です。その上に、(4)コラボレーションを基とした取引管理、(5)サプライチェーン・マネジメント、(6)販売/販売促進計画、(7)戦略実施/製品開発があります。日本の流通業は今、第4段階くらいにあるといえるでしょう。
流通業の潮目が変わってきた現在、商品開発・品揃え・物流・補充・市場分析・販売活動のどれをとってもサプライチェーンを強固にし、コラボレーション関係で進めなければ厳しい競合に勝ち抜くことはできません。メーカー、卸、小売が、それぞれで重複する部分をいかに効率化し、製・配・販の流れをあたかも1つの企業のように透明化していくか。そして中間にいる卸売業も、これまでのように物流機能を提供するだけでなく、情報を中心としてメーカーと小売を支援するような新たな役割が求められていくことでしょう。
中堅企業でも、企画、営業、生産、物流などを横断して分析し、鳥の目で戦略を策定するセクションをぜひ設けてほしいと思います。社内外で協働しながら、一歩一歩確実にステップを進めていくことで改革は成し遂げられるのです。
著者プロフィール
舟本 秀男(フナモト ヒデオ)
舟本流通研究室 代表- 昭和41年 小樽商科大学卒業、日本NCR(株)入社
昭和60年 NCRコーポレーション(米国) 日本担当ディレクター
平成 4年 日本NCR(株)、取締役流通システム事業部長
平成 8年 NCRコーポレーション(米国)流通システム・ディレクター
平成11年 舟本流通研究室設立、代表に就任
米国リテイル・システムズ・アラート社と業務提携
平成13年 GCI/VICS CPFR委員会諮問委員就任 - 現在、「リテイル・システムズ研究会」を主宰し、わが国流通システムの改革に向け、研究、執筆、講演、セミナー企画の各活動を行っている。
著書 : 流通再生戦略(同友館)、「図解CPFRがわかる本」(JMAM)、
「コラボレーティブコマース」(同友館) 他
舟本流通研究室ホームページ
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[ 取材日:2008年8月13日 ]
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